定義
何らかの理由で歯科治療に対して極度の不安や恐怖心を抱いており、特定の刺激によって拒否や回避行動が引き起こされ、歯科治療を上手に受けることができない、または治療継続が困難な状態を示す。歯科心身症の一つ。
特徴
日常生活では特に不安や恐怖心に支配されておらず、ただ単に歯科治療だけが怖いというケースが多い。強い不安や恐怖心のため、歯科を受診しても応急処置しか受けることが出来ず、歯痛が緩和されるとすぐに来院しなくなる傾向にある。また、歯痛を我慢できなくなり歯科を受診した際には、上記理由から治療途中の歯がたくさん見受けられることも歯科治療恐怖症の特徴の一つと言える。
恐怖心が強い場合は、動悸、頻脈、過度な血圧上昇、過呼吸、血管迷走神経反射などが引き起こされることがある。また、不安感や恐怖心によって、上下顎の印象採得や口内法のエックス線フィルムの挿入等でさえも、吐気や咽頭反射(異常絞扼反射)を生じてしまうことがあり、それが引き金となって歯科用ミラーでさえも受け入れが困難となってしまうこともある。
原因
・過去の歯科治療体験
(例) 幼少期のトラウマ
局所麻酔による気分不良
痛みに耐えながらの強制的歯科治療
歯を切削する機械の音や振動
ラバーダム防湿による呼吸苦
印象採得時の息苦しさ
歯科材料の匂いによる嘔気誘発
・精神科疾患
(例)うつ病、不安神経症、パニック障害、解離性障害 など
歯科治療上の対応
当科では初診時にアンケートに御協力いただき、恐怖の対象となっているものを明確化させ、患者の全身状態や恐怖の対象に配慮しながら、患者一人一人に最適な治療計画を立てる。軽症の患者では、受容的な対応やリラクセーション法、系統的脱感作などの技法を用いる。また、歯科処置の緊急性や患者の心理状態に応じて、笑気吸入鎮静法、静脈内鎮静法、全身麻酔法といった薬物的行動調整法も組み合わせながら、歯科治療を行っている。最終的には、歯科治療の成功体験を通して患者に自信や達成感を持たせ、一般歯科でも受診可能なレベルに到達させることを目標とする。