定義
口腔の各部位に一定以上の強さの物理的刺激、患者の過去の経験に基づく不安や恐怖心といった心理的要因により誘発される、生体防御反応のひとつ。実際にはほとんどが胃の内容物を伴わない反射であるため、正確には嘔吐反射とは区別され、広義では咽頭反射や催吐反射とも呼ばれている。
特徴
食事などは普通に摂取できているにも関わらず、歯科治療中に咽頭部に水や唾液が流れ込む、歯ブラシやデンタルミラーなどが口腔内に挿入される、器具が舌に触れるといったわずかな要因だけで反射が誘発されるため、歯科治療継続が困難である。
反射が軽度の場合、治療部位や治療環境を工夫することで通法下での歯科治療が可能となることもあるが、重度の場合、通法下では数秒しか開口保持できず診察も困難なことがある。
原因
・歯科治療に対する不安やトラウマ
(歯科治療恐怖症)
・口腔内の解剖学的形態
(例:巨舌、歯列狭窄など)
・タバコや過度の飲酒により口腔内や咽頭部に高い感受性を示す
・消化器疾患
・精神科疾患
(例:うつ病、不安神経症、パニック障害、解離性障害)
など
歯科治療上の対応
当科では、初診時にアンケートに御協力いただき、異常絞扼反射の程度や誘発因子を把握することから始める。軽症の患者や歯科治療恐怖症に起因するケースでは、受容的な対応やリラクセーション法、系統的脱感作などの技法を用いることで通法下での歯科治療が可能となる場合がある。また、歯科処置の緊急性や患者の心理状態、異常絞扼反射の程度に応じて、笑気吸入鎮静法、静脈内鎮静法、全身麻酔法といった薬物的行動調整法も組み合わせながら、歯科治療を行っている。
異常絞扼反射患者の中には、口腔内への意識は高いものの、治療を上手く受けることができないという思いから歯科受診を諦めているケースも多く見られる。また、患者自身が行う日々のブラッシングにおいて、舌側や大臼歯部に歯ブラシを入れることができないケースでは、歯科治療後も口腔衛生状態を保つことが難しく、う蝕や歯周炎の再発を繰り返し、早期に大臼歯部を喪失してしまう傾向にある。当科では、治療のみならず予防も含めて、最終的には一般歯科医院を定期受診して頂けるよう、歯科治療に慣れるための訓練や患者指導にも力を入れている。